期待感が高まる景気回復、厳しさが続く雇用情勢


 日本のGDPは、外出自粛などの行動制限によって大きく減少しました。正確な数値は確定していませんが、今年上期(1月から6月)のGDPの減少幅は、50~70兆円(年率20%)程度になるだろうと言われています。

 政府は、景気の急速な悪化を受けて、2回の緊急経済対策を決めています。経済対策の規模は、事業規模が約200兆円、政府による支出額(真水)が約58兆円と、安倍首相が言うように空前絶後の水準になりました。経済対策の規模を考えれば、失われたGDPの多くは、経済対策によって取り戻せるかもしれません。

 いったんは大きく減ったGDPが、経済対策によって回復することから、景気回復に対する期待感はジワジワと高まっているように感じます。たとえば日経平均株価は、3月17日に1万7千円を割り込む水準まで下げましたが、2ヶ月半後の6月には2万2千円を超えました。外出自粛で見られなくなった人の動きも、緊急事態宣言が解除され、少しずつ増え始めています。

 ただ注意すべきは、たとえGDPが元の水準に戻ったとしても、雇用情勢も元に戻るわけではないということです。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、人々の考え方や生活のあり方は大きく変わりました。そして大きく変わった考え方や生活のあり方を前提に、企業や人々は行動を変えています。

 働き方が変わった一例は、テレワークや在宅勤務の普及です。外出自粛を機に、事務職を中心とした労働者の多くがオフィスに行かず、自宅で仕事をするようになりました。外出自粛の要請も緩和されたことで、労働者は以前のようにオフィスに通うようになりましたが、今でもテレワークや在宅勤務を続ける労働者もいます。IT企業などは、今後もテレワークや在宅勤務を認める方針を示しています。そして、テレワークや在宅勤務を認める企業は、中長期的には用意するオフィス面積を小さくすると言われています。

 テレワークや在宅勤務を認める企業でオフィスを返上する動きが強まることから、オフィス用不動産の需要は、以前の水準に回復すると期待することが難しくなりました。また、外出自粛をきっかけに廃業・閉店を決断した飲食店や小売店も増えており、店舗用不動産の需要も早期の回復が期待できません。

 オフィスに通う労働者が以前に比べ少なくなれば、公共交通機関やタクシーの利用客も以前の水準に回復しないでしょう。利用客が少なくなれば、駅やバス停の周囲に位置していた飲食店や小売店は、売り上げを以前の水準に戻すのが難しくなります。

 一方で、外出自粛を機に需要が増えた業界もあります。たとえばインターネットによる購入は、外出自粛の対応策として、さらに普及しました。ネット購入では、ネット販売業者が商品の発送業務を担い、宅配便などの輸送業者が商品を運びます。この結果、商品を配送する人や倉庫で働く人の需要が高まりました。足元では、非正規雇用を中心に雇用情勢は厳しさを増していますが、配送業や倉庫業の人手不足感は強いままです。

 労働者にとっての問題は、企業や人々の行動が短期間で変わってしまったために、労働者が変化に対してすぐに対応できないことです。これまで不動産業界や飲食店で働いていた人が、明日から倉庫で働けるわけではありません。仮に働けたとしても、不動産業界や飲食店で働いていた時と同じように活躍できるわけではありません。求められる知識や経験が、以前と大きく異なるからです。

 これは労働者を雇う企業にとっても問題です。たとえ人手不足だとしても、自社の業務について知識も経験もない方を雇うわけにはいきません。むしろ、これまで一緒に働いてきた従業員のスキルアップを図ったり、設備投資などで従業員の生産性を上げたほうが理にかないます。

 人手不足の業界・業種がある一方で、失業者が多く存在する状態を雇用のミスマッチと言います。一般には、雇用のミスマッチは、景気回復とともに解消すると言われていますが、解消までには一定の時間がかかります。また、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとした社会変化は、短期間で一気に進んでしまったために、失業者が新しい変化に対応するには従来以上に長い時間を要する可能性もあります。

 失業状態が長く続けば続くほど、過去に得てきた知識や経験が陳腐化し、失業がさらに長期化する恐れも高まります。景気回復に対する期待感は高まっているかもしれませんが、悪化を続ける雇用情勢は、景気の動きと同じように、改善に向かい、以前と同じ状態に戻る、と考えるのはやや楽観的に思えます。


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